今生のことしか分からない　　　　　　　　　　　 目次に戻る


　芋虫のK太は今日も無心に葉っぱを食べていたが、ふと疑問が生じた。
「今年の葉っぱは例年の葉っぱと同じくらい美味しいのだろうか？」
　自分は今年のうちに蝶になって命を終える。来年生まれ変ってまた葉っぱが食べられる保証は全くないのだ。
　それは、我らを踏み潰す巨大な人間たちにおいても同じだ。今生のことしか分からない。それなら我ら芋虫と変わるところがない。
　芋虫のK太は再び無心に葉っぱを食べ始めた。


　　　　　　青森県医師会報　平成２２年　８月　５６７号掲載



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