町立田子病院に赴任して思うこと


 平成6年7月1日付で、田子町国民健康保険町立田子病院に赴任して一年余りが経過しました。髭を蓄えてユニ−クな医療をされた横内正典前院長に続いての勤務であり、先生の足跡が大きく残された職場でありました。「自治体病院は冬の時代を迎えた」と言われる昨今、町立田子病院も他の自治体病院と同様あるいはより厳しい状況にあります。古い設備、医師不足(現在は四人に増員)、患者離れ、人件費アップなどの問題を抱えて、平成5年度の一般病床の利用率は55.5%、一日当たりの外来患者数は163人という状況です。病院の自助努力および町の一般会計からの繰入金による経営健全化五年計画がスタ−トしています。
 横内正典前院長の医療とは進路を変えて、田子町立病院の本来の使命である田子町民の健康に貢献することを本務と考えました。多くの職員が田子町民であることから、「町民による町民のための医療」というキャッチフレ−ズを掲げ、地域の要望にお応えすることを第一と考えました。一個の町立病院として、大きなアドバル−ンを浮かべたり、華々しいロケットを打ち上げたりは出来ませんが、地域の要望にお応えすべく、出来ることをひとつひとつ地道に実行していくのが責務だと考えます。そうした方針のもとに施行されたものとして、訪問診察の拡大、訪問リハビリの試行、医師らによる「夜の健康講座・成人病教室」(地区の公民館などに夜に医師ら病院スタッフが出向き、健康教室を開く)などがあります。また、当院の現在の診療科目は内科・外科のみですが、地元でできることは地元でと考え、諸先生のお世話をいただき簡便な耳鼻科的処置なら当院外来でできるようにして、患者さんが他の市や町へ出て行かずに済むようにできました。
 大きな赤字を抱える地方自治体病院をめぐって、「地域の中核病院の設置と病院の統廃合」という論議が活発になっていますが、これがもし大きな流れとなれば、当院も大きな影響を受ける位置にあります。この先の不透明な道行きと多難さを考える日々であります。(平成7年8月1日)

     八戸地区弘前大学医学部同窓会誌「はちのへ」第26号 掲載


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