【第11話】頭が変だ、当たるかも知れない
「頭が変だ、当たるかも知れないから、早く何かして。」
患者さんからこんな訴えを受けることがあります。その症状をよくお聞きしてみると、それは頭皮の神経痛だったり、筋緊張性頭痛だったりします。
脳卒中のうち一番多いのは脳梗塞ですが、その症状の順番としては、脳の血流の低下による頭重感・めまいなどの自覚症状が動揺性に出没する状態があり(これを慢性脳循環不全症といいます)、これに精神症状(特に抑うつが多く見られます)が続き、ついに神経症状が出て来るとされています。脳梗塞を発症した患者さんのお話をよく観察すると、例えば、発症の少し前から急に箸の使い方が下手になってよくこぼすとか、急に字が下手になったとか、よく茶碗を落とす、歩くと片方にばかり傾くなどの前兆が見つかることがあります。このような症状が見られる時期では既に治療開始時期としては、やや手遅れだと言わざるを得ません。脳梗塞の発症の前兆を的確に捉えて早期に予防策を打つのが好ましい訳ですが、それよりももっと大切で確実な予防策があります。それは高血圧、糖尿病、高脂血症、肥満などを予防して、動脈硬化を進行させないことです。
【第12話】ガンは持って生まれた運命か?
「高血圧や糖尿病ならともかく、ガンは避けられないから、これは仕方がない。」
患者さんからこんなお話をお聞きすることがあります。高血圧や糖尿病なら普段の努力で防ぎようもあるのに、ガンばかりは、これは持って生まれた運命として諦めるしかないというお気持ちのようです。ところが、ガンと食事との関係や、ガンと日常生活との関係が明らかになるにつれて、ガンも普段の努力で防ぐことのできる成人病と考えられるようになってきました。ガンを防ぐためには、次の事をぜひ実行しましょう。つまり体の抵抗力を維持するためには、@毎日変化のある食事でバランスのとれた栄養をとる。A適量のビタミンと繊維質のものを多くとる。B食べ過ぎを避け、脂肪と塩辛いものは少なめにする。C適度にスポ−ツをする。またガンを引き起こす原因を避けるためには、D熱い食べ物は冷ましてから食べ、焼け焦げたところは食べない。Eカビの生えたものに注意する。Eタバコは少なく、お酒はほどほどに。F日光を浴び過ぎない。H体を清潔にする。そうすれば、ガンにかからないようにすることができます。ガンは持って生まれた運命ではありません。
【第13話】恐い頭痛、恐くない頭痛
「昨日から頭がズキンズキンと痛い、だんだんひどくなるので、当たるかと思って、急いで来ました。」
患者さんからこんな訴えを受けることがあります。頭痛にも、恐い頭痛と恐くない頭痛があります。恐い頭痛にはクモ膜下出血と脳腫瘍があります。クモ膜下出血は、脳動脈瘤が破裂して、クモ膜と脳の表面との間に出血を起こすもので、5分を争って、脳外科へ救急車で搬送しなければなりません。脳動脈瘤破裂の時の様子は「今までに経験したことのない激しい、突然の頭痛」というように言われます。「バットで殴られたようだ」と言った人もあります。普段頭痛持ちの人でも、今回の頭痛は全く明らかに違う突然の激しい頭痛だと言います。このお話だけからクモ膜下出血だと診断することが出来るとされています。一方、恐くない頭痛には片頭痛、筋緊張性頭痛、三叉神経痛があります。普通お腹が痛ければお腹に病気があり、胸が痛ければ胸に病気があり、頭が痛ければ脳に病気があると考えがちですが、脳そのものには痛みを感じる神経がありません。(従って、脳梗塞などは痛くないのです。)恐くない頭痛は脳の出来事ではなく、頭蓋骨の外側の出来事なのです。
【第14話】聴診器をあてれば全ての病気が判る?
「今年の検診、受けました?」
外来の患者さんにこうお聞きしますと、不思議そうな顔をされて、「毎週のように病院に来ているんだから、検診は要らないだろうと思って、受けませんでした。」とご返事される方がよくいらっしゃいます。たとえば高血圧で内科に通院されている患者さんだと、内科に通院している以上は少なくとも内科的疾患については全て診てもらっているというお気持ちになられるのか、住民検診を受けられない方がしばしばおられます。そういう方のカルテを見ますと、一年以上も検査なしで、服薬だけが続いているということがしばしばあります。「医師は患者さんのお顔を見て聴診器をあてれば全ての病気が判る」と思ってくださるのであれば、医師にとっては大変有難いことなのですが、現実のところ、それだけであらゆる病気を早期に発見できる医師はほとんどいません。病気の症状が出る前に早期に発見するためにはやはり定期的な検査が必要です。少なくとも一年に一度は必要です。田子町では、基本検診、厄年検診、出稼ぎ検診、結核検診、各種ガン検診が毎年おこなわれております。是非受診されることをおすすめします。
【第15話】人生はマラソン競争
病院の外来においでになって、「もう八十歳を越えました。昔ならとっくに死んでいた歳なのに、ありがたいことだ」とおっしゃる方々が多くなっています。日本人の平均寿命は、男性は七十六歳、女性は八十二歳で、これは世界一です。この内には、健康で長生きした方もあれば、何かの病気で若くして亡くなられた方もあります。これを例えれば、「人生はマラソン競争」ということができるかと思います。上手な走り方をする人はずっと遠くまで走ることができますが、下手な走り方をする人はすぐ疲れて倒れてしまいます。上手な走り方といいますのは、成人病にならないような暮らし方ということになります。現在の日本人の死亡原因の第一位はガンで、次に心臓病、脳卒中の順です。これらの成人病は、既に小児の頃から始まっており、日々の暮らし方の中に原因となるものがあって、それが積もり積もって発症するものです。マラソン競争においても同様のことが言えます。自分の一歩一歩の走り方が正しいものかどうかを採点してくれるのが各種の検診だということになります。積極的に検診を受けられることによって人生というマラソン競争の勝利者となりたいものです。
【第16話】めまいがする、当たるかも知れない?
「めまいがする、当たるかも知れないと思い急いで来ました。」 患者さんからこんな訴えを受けることがあります。その症状をよくお聞きしてみると、立ちくらみ、ふらつきである場合と、回転性のめまいである場合とがあります。立ちくらみは、立ち上がった瞬間に血圧が下がり脳幹が虚血に陥ることによって起こります。ふらつき、浮動感あるいは動揺感も多くは脳幹や小脳の障害によって起こります。これらの場合の原因は、脳動脈硬化であることが多く、脳の血液循環を改善する薬を服用することが必要です。このような患者さんでは、脳循環の自動調節機構が弱いので、体血圧が下がると、脳血流も低下してしまいます。血圧の薬を服用したら、返って頭の具合いが悪いとおっしゃる患者さんの場合は降圧剤の服用は好ましくない訳です。次に回転性のめまいである場合は、天井や景色あるいは自分がぐるぐるまわっているような感じがします。もしこの症状に頭痛が加わっている時は小脳出血であることがありますから、急いで来院してください。また、この症状の他に難聴や耳鳴を伴う時、あるいは他に症状のない時では、恐いめまいではありません。
【第17話】カゼをひきました、少し強い薬をください
今年もカゼの最盛期になりました。「カゼをひきました、少し強い薬をください。」患者さんからこんな希望を受けることがあります。カゼの症状として、発熱と炎症、痰、咳、鼻水、などがあります。それぞれの症状を強い薬で抑えたほうがいいのでしょうか?必ずしもそうではありません。発熱は、白血球を活発にし気道の繊毛運動を活発にし、ウィルスの活動を弱めます。炎症は体の免疫反応です。従って、これらを強い解熱消炎剤で抑えてしまうと、かえってカゼは長引いてしまうことがあります。感染を早く終わらせるためには発熱は必要なので、軽い発熱なら薬で無理に下げなくて良いでしょう。感染した部位で作られる痰には、ウィルスや細菌を殺す成分が含まれ、これらを包み込んで出てきますが、もし、強い鎮咳剤で咳を抑えてしまいますと、痰が気管支に貯ったままになり、呼吸が困難になったり、気管支に障害を与えたりします。鼻水には、ウィルスや細菌の感染を抑える様々な物質が含まれています。カゼ薬には過剰な炎症反応を抑える効果がありますので、高熱が続く時やひどい咳の時に服用し、なによりも栄養と安静と水分の補給に努めて下さい。
【第18話】少しでも息のあるうちに
私が津軽地方のある病院に勤務していた頃のことです。入院していたある患者さんがとうとう御臨終を迎えた時、駆け着けた大勢の家族に囲まれて、私は心臓マッサージを開始したのです。ところが家族のある方々は、「そんなこと止めてくれ。少しでも息のあるうちに早く家に連れて帰って、家で最期を迎えさせたいから」と言って強く退院を希望されたことがあります。患者さんにとっても、家族の方々にとっても、長く棲み慣れた家で最期を迎えたい、迎えさせたいという気持ちはもっともなことです。ところが現在、自宅で最期を迎える方は、全国平均で20.9%(青森県で22.1%)だそうです。厚生省は昨年4月に診療報酬の改訂を行い、在宅医療(在宅の患者さんを訪問して、診察したり看護すること)および在宅終末期医療(在宅末期の患者さんを訪問して、診察したり最期を看取ること)に重きを置き、今後更に推進するものと思われます。これに呼応して、町立病院でも在宅医療として、訪問診察、訪問看護を行って来ました。在宅の患者さんの居られる御家族では、どのように最期を迎えさせたいのか、その対応の仕方を家族全員で話合って決めておく必要があると思います。
【第19話】病院は病気を治すところ?
今まで病院は病気を治すところと考えられてきました。つまり肺炎や膵炎のような急性疾患で入院された患者さんがすっかり元気になって退院してゆくことから、病院は病気を治すところと考えられてきました。でもこの頃は少し様子が違って来ています。高齢化の進行とともに疾病構造も変化して、慢性疾患が増加しています。その中には、動脈硬化による疾患(たとえば多発性脳梗塞)などのほとんど加齢現象と言える状態まで含まれています。つまり治る病気ではない病気(?)をもって入院される患者さんが多くなっています。その結果、入院された患者さんがすっかり元気になって退院してゆくということがなく、場合によっては、入院していた分だけ更に慢性疾患が進行して退院してゆくということも少なくありません。病院では、慢性疾患に対して急性疾患の治療をする訳にはいきません。つまり、治るものでないものに、治そうとして検査投薬をしてゆく訳にはいきません。これは田子病院に限らず、全国的な大きな流れであり、今日の医療が大きな変化を強いられている理由であります。この変化の後を受けるものとして、在宅医療および在宅終末期医療が言われている訳です。
【第20話】子供らの世話にならずに
「この歳にまで成って、もう何時お迎えが来てもいいです。出来れば子供らの世話にならずに。」とおっしゃる方がおられます。長く棲み慣れた家で、長患いなく、家族の方々に囲まれて、最期を迎えたい、そう言うお気持ちが感じられます。(実際自宅で最期を迎えられた方は、全国平均で5人に1人となっています。)現在御高齢の方々は戦前の家族制度のもとで「親に孝行する」ことを強く教えられ育てられた方々であり、また、現在介護にあたっている家族の方々にもその考え方がまだ残っております。高齢者の介護がこのような家族の手によって続けられているのが現状です。ところが最近では、大家族が減って核家族化が進み、戦前の「親に孝行する」という考え方だけに多くのことを期待するのが困難になってまいりました。特に小家族や高齢者夫婦世帯では、闘病生活が長期化すればその在宅介護が困難になります。しかしながら、疾患としては入院治療の対象とならない慢性疾患の方が多いのです。これに対して厚生省では在宅医療および在宅終末期医療を推進している訳ですが、これにより本人や家族が望むような闘病生活が送れるのは少し先のことかも知れません。