【第1話】子供の成人病を防ぐ雑食のおすすめ
 この頃、小児成人病という言葉が使われています。子供の頃の生活様式を改善することで予防できる成人病のことを言います。厚生省の研究班によれば、外見上健康な子供たちでも、40%以上が成人病の原因を持っている成人病予備軍だそうです。この中には、肥満の子(10%)や、コレステロールの高い子(10%)が含まれています。現代の子供たちの食事の特徴をあげてみますと、朝食の量が少ない、間食・夜食が多い、インスタント食品スナック食品が多い、肉が多く魚が不足、などがあります。子供たちの中に成人病予備軍が増加している背景には、食事の西洋化、過食、運動不足、少産化に伴う親の過保護などがあります。このまま成人病予備軍が増加していけば、将来、今の子供たちの平均寿命が短くなってしまうかも知れません。それを防ぐためには、食事は、雑食(和食、洋食、中華食など)にする、食品数を1日30品以上にする、食塩・砂糖・脂肪を少なく、カルシウムを十分に、食物繊維を十分に、固いものを与える、偏食にしない、不規則な間食をしない、空腹で食卓に向かわせる、などのことが必要だと思います。           
 
 
【第2話】コレステロ−ルの多い食物
「検査の結果を見ると、コレステロールが高いですよ。」
「おかしいな、肉は食べていないのに。」
 病院の外来で時折こんな会話が交わされることがあります。食事の西洋化が進み、お肉を使った料理が増えると同時に、「コレステロールは動脈硬化の原因である」という話をよく耳にするため、結局お肉さえ控えればいいのだと考えられたのでしょう。確かに牛脂や豚脂にもコレステロールが多く含まれていますが、その他の食品にも注意しなければなりません。実は、コレステロールの多い食物は他にもたくさんあります。バター、チーズ、チョコレート、クリームやアイスクリームなどの乳製品、魚卵(たらこ、すじこ、かずのこ)、ウニ、カニ、イカ、貝類、ウナギ、鶏卵(卵黄は一日一個では多過ぎますが、卵白は構いません)、とりもつ、レバーなどがあります。逆に、コレステロールを低くするためのおすすめ食品としては、大豆とその加工品(豆腐、オカラなど)、タラ、アジ、カレイ、サケ、イワシなどの魚、植物油(大豆油、ナタネ油など)、マーガリンなどです。線維質の多い食品(野菜、柑橘類、海草など)もおすすめします。                   
 
 
【第3話】小児科が欲しい
「町立病院に小児科医が居ればいいのに」という声がよく聞かれます。どの親御さんも、こどもは小児科医に診療してもらいたいという強い要望がおありのようです。「餅は餅屋」というものです。私も小児科医がいてくれたらなと思いますが、残念ながら小児科医はいまだ少ないようです。
 従来から、医学生が小児科学を勉強する時に、入門の言葉として、しばしば用いられる名言があります。「小児は成人を小さくしたものではない」というものです。つまり、小児は解剖学、生理学、免疫学などの諸面において、年齢的な特徴を持っていることを忘れてはならない、と強く戒めている訳です。
 町立田子病院では、十一月一五日から藤原直人先生(内科)が常勤となり、現在内科医師三名(小松、斉藤、藤原)で診察しております。内科医でも、幼児(満一歳以上)および児童の「風邪」などであれば、十分診察可能と思います。その上で、もし専門の小児科医の診察が必要とする状態であれば、ただちにしかるべき医師を紹介することで対処していきたいと考えておりますので、先ずは来院くださることをお願いいたします。
 
 
【第4話】患者さんから聞いた「当たった時のこと」
 病院のカルテには「現病歴」という欄があります。例えば、脳卒中の患者さんの「現病歴」には、「いつ、どこで、どのようにして、脳卒中になったのか」ということが記載されています。私は、以前勤務していた脳卒中専門病院で、患者さんから、あたった時のことを聞いて、たくさんの「現病歴」を書きましたが、そのうちしばしば出会ったものを御紹介しましょう。最も多い脳梗塞の患者さんの場合では、@早朝トイレに起きて倒れた、A発熱して飲まず食わずで寝ているうちに当たってしまった、B深酒泥酔のまま眠り込んで翌朝目覚めたら当たっていた、C炎天下たくさんの汗をかきながら仕事をしていて倒れた、D汗だくで雪掻きしていて倒れた、などがあります。これらに共通することは、脱水(体の水分が足りなくなること)状態であったということです。このような時には、血液が濃縮されて、粘度が高くなり、どろどろねばねばした血液によって、とうとう頭の血管が詰まってしまったということなのです。更に「現病歴」の文頭には「以前より血圧が高いことを指摘されも放置。」とか、「以前より糖尿病あるも治療せず。」という記載も多く見られます。
 
 
 
【第5話】肥満は病気のもと
 毎年町内で行われている循環器健診の結果を見ますと、肥満を指摘される方が多いです。肥満が高血圧や糖尿病を招き易いことを考えると、やはり気を付けなければなりません。昔は、太っている人は「重役タイプ」とか言われて社会的地位が高い人だと見られる時代がありました。しかし今は逆に、太っている人は、健康についての知識が足りない人だとか、摂生する意志が弱い人だとか、ストレス解消が下手な人だとか言われてしまいます。
 肥満の第一の原因は食べ過ぎです。食べ過ぎないための賢い食生活の方法を具体的に列挙してみましょう。@空腹の時には買い物に行かない。満腹の時に買い物をする。A食べ物は開け難い容器に入れて、目に付かない所にしまい、摘み食いしない。B簡単に大量に作れるインスタント食品を避ける。Cおかずを一緒盛りしないで、一人ずつ小皿に盛る。D食事の場所を決めておき、他の場所には一切食べ物を置かない。E決まった時間に規則的に食べる。F食卓の残飯は速やかに処分する。G食品をうまく選択する(例えば、鶏卵50gと豆腐100gは同じカロリ−ですが、豆腐を食べればおなかがいっぱいになる)などです。
 
 
【第6話】「血圧の薬は一生止められない?」
「血圧の薬は、一度飲み始めたら、一生止められないというのは本当ですか?」
 患者さんからこんな質問を受けることがあります。降圧剤が、まるで一度手を出すと一生の身の破滅を招く麻薬のようにお考えの方がいらっしゃいますが、そうではなくて、降圧剤は、血圧の高い時期にのみ服用すれば良いものです。
 血圧はいつも変化しています。一年の中でも、夏に低く、冬に高くなります。一日の中でも、日中に高く、睡眠中は低くなっています。また、その時どきでも、怒ったり悲しんだりの時は高く、ゆったり安静にしている時は低くなっています。血圧がいつも変化しているのは、生きている証拠だと言えます。
 従って、一度血圧を測定しただけでは、高いとも低いとも言うことができません。何度か測定してみて、いつも高ければ、高いということになります。その時期(例えば冬期)にのみ降圧剤を服用すればいいということになります。ほとんどの方は、本態性高血圧であり、加齢とともに血圧は高めになって行きますので、ある年齢の頃に服用し始めた方は、その後も服用を続けることが多く、文頭にあるような印象を受けてしまうようです。
 
 
【第7話】「早朝トイレに起きて倒れた」
 脳卒中のうち最も多いのは脳梗塞ですが、その患者さんから、発症した時のことを聞いてみますと、「早朝トイレに起きて倒れた」という方がしばしばおられます。その原因として、血圧の変化があげられます。血圧はいつも変化していて、一日の中でも、睡眠中は低く、日中の活動時には高くなっています。朝目覚めて床を離れる時、血圧がとても不安定になっていますので、もし離床時にめまい、立ちくらみなどの症状がある方は、朝目覚めてもすぐに床を離れず、床に入ったままでゆっくり休み、しっかり目が覚めてから床を離れるのが良いと思います。
 次の原因として、脱水状態(体の水分が足りなくなること)があげられます。このような時には、血液が濃縮されて、粘度が高くなり、どろどろねばねばした血液によって、とうとう頭の血管が詰まってしまいます。これを防ぐためには、夜就床前に、コップ一杯の水分(コップ酒ではいけません)を飲むことをおすすめします。
 また、朝起きたら、コップ一杯の水分を飲むことをおすすめします。朝飯前の一仕事をされる方であればなおさら、仕事の前のコップ一杯の水分を忘れないでください。
 
 
【第8話】脳卒中の予防には血圧が低い方がいい?
「先生、大変だ!血圧が高い、脳卒中になるから、早く血圧の薬を!」
患者さんからこんな訴えを受けることがあります。脳卒中の予防には血圧が低い方がいいのでしょうか?高血圧が脳卒中や心疾患の最も大きな原因であり、血圧が高いほど発症しやすくなることはもう明らかになっています。さらに薬を服用することで発症率が減少することも明らかになっています。
 それでは、降圧剤を服用して血圧を下げれば下げるほど良いのでしょうか?心臓の血流の弱い患者さんでは拡張期血圧(血圧の下の値)が低くなると心筋梗塞による死亡率がむしろ高くなるという報告があります。脳の血流は、体の血圧の影響を受けずに、いつも一定に保たれるように出来ています(自動調節能)。ところが高血圧の人ではこの仕組みがうまく働かず、血圧が高ければ脳の血流は不要に増え、薬で無理に降圧すれば脳の血流も弱ってしまい、そのために脳血管障害を招きやすいと考えられています。高齢者の高血圧では降圧目標は収縮期血圧(血圧の上の値)は150で、拡張期血圧(血圧の下の値)は85〜90が適当とされています。
 
 
【第9話】甘い物を食べると、糖尿病になる?
「糖尿病があるようですよ。」
「おかしいな、甘い物は控えているのに。」
外来で患者さんとそんな会話が交わされることがよくあります。さらに、ご自身が糖尿病であることをよく知っておられる患者さんでも、
「今月の検査でも血糖が高いです。」とお話すると、
「実は、昨晩まんじゅう食べたんですよ。」とのご返事。
甘い物を食べると糖尿病になるとお考えの患者さんは多いです。実は、糖尿病の発症には遺伝が関係することが明らかになっており、単純な遺伝ではなく、いくつかの遺伝子によって決定されていると考えられています。このように糖尿病を発症しやすい遺伝の人が、ウイルス、ストレス、過食、肥満などの原因によって糖尿病を発症すると考えられています。特に、過食により、膵臓にあるインスリン産生細胞が疲労して壊れてしまうことが大きな原因とされています。従って、血のつながった家族の中に糖尿病の人がいらっしゃる人は、ご自身が糖尿病を発症しないように気を付けなければなりません。そのためには、甘い物だけでなく、一日の食べ物(三度の食事と間食)を丁度よく制限することが必要です。
 
 
【第10話】俺は一度も医者にかかったことがない
「俺は今まで一度も医者にかかったことがない。」
患者さんからこんな自慢話をお聞きすることがあります。
「それでは、検診を受けているのですね?」
とお尋ねすると、そうでもないとのご返事です。もしそうなら、症状が現れたときには、病気が進行していることがありますので、積極的に検診を受けられることをおすすめします。検診を受けると、次のような成人病が早期に発見され、一人ひとりに見合った指導が受けられます。高血圧がある方は食塩を減らしましょう。糖尿病や肥満や高脂血症がある方は、エネルギ−の取り過ぎや脂肪の取り過ぎを止めましょう。そうすれば動脈硬化が進行せず、脳卒中や心臓病(狭心症、心筋梗塞)を未然に防ぐことができます。肝臓病がある方はアルコ−ルや脂肪の取り過ぎを止めましょう。さらに死亡原因第一位の癌も発見されます。早期発見、早期治療により根治されることが多くなっています。最近、癌と食事成分との関係が明らかになってきました。癌を防ぐには生活習慣や食事のとり方が重要です。そうした上でこう言ってください。「おかげで俺は今まで一度も医者にかかったことがない。」




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       小松院長のこぼれ話(1)
       【 第1話 】から【 第10話 】まで 

     (青森県三戸郡田子町「町立田子病院」院長在職中に、
      田子町広報誌「たっこ」に連載した短文を収集しました)
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