一日の診療を終えて帰宅したDr.Kは、小学6年の長女と3年の次女に、「タマゴッチ」が欲しいと言われ、どうして、パチンコの景品にもなっている「たまご型ウオッチ」がそんなに人気があって入手困難なのか、理解できていない。小学校の音楽朝会では、「伝説のコンビニ」という曲を歌っているのだそうで、およそ医学博士Dr.Kの頭の中では、伝説という言葉とコンビニエンスストアという言葉は結び付かないのだ。Dr.Kは、少し世の中が変になって来たのだと言い訳して、現実と自身とのずれに気付かぬ振りを決め込んだ。Dr.Kは開業に先だって自宅を建てた。住宅金融公庫への少なからぬ返済もある。 Dr.Kは、去年兄が急逝したため、一人息子となってしまった。父母も老いつつあり、妻の父母も然りであった。子を後継者にしようと、腐心もしている。日常の診療と雑事、こんな散文的日々の積み重ねの他には自身の価値は無いのだろうかと、溜め息をつくことがある。そう書いたこの投稿文も程なくしてチリ紙交換に出されてしまうことをDr.K
は知っている。諸行無常の響きあり、か。(平成9年4月28日)
(秋田大学医学部同窓会誌「本道」第9号に近況を投稿し掲載された文章です)